印刷のハーフトーンとシャープ順序:インクジェット/レーザーで“にじみない”画像出力
Webで整えた画像を紙へ載せるときに起きがちな滲み・ザラつき・過剰dpi。原因の多くはpx⇄mm⇄dpi の不整合と、ハーフトーン特性を無視した過剰シャープです。 本稿は 「必要画素だけ確保 → ノイズ低減 → 弱シャープ → 安全圧縮」 の順序を、インクジェット/レーザーの違いも含めて実務フローに落とし込みます。
先に結論(TL;DR)
- 必要pxは px⇄mm⇄dpi で逆算(A4・150–300dpiが多くの一般用途で実用)。
- 過剰dpiは縮小→弱シャープ。細部にリングが出る時は縮小比を見直す。
- インクジェットはにじみ、レーザーは粒状/エッジが支配。過剰シャープは禁物。
1. なぜ滲むのか(AM/FMハーフトーンと装置特性)
- インクジェット: インクの拡散(ドットが染みる)→ 微細ノイズ/過剰シャープがにじみに変換。
- レーザー: トナー粒状とエッジ階段 → 強シャープでエッジが不自然に強調される。
- AM/FMスクリーン: 網点/確率的散点の違いで微妙なトーンが壊れやすい帯域がある。
1.5 インクジェットとレーザーの違い(運用指針)
同じ原稿でも出力装置で“最適”が変わります。インクジェットはドットがわずかに膨らむため、 先に過剰dpiを避けて縮小→弱アンシャープが安全。一方レーザーは粒状の階段感が目立つため、弱ノイズ低減→ごく弱いシャープでエッジをわずかに整える程度に留めます。
- インクジェット — 150–240dpi実運用が多い。微細テクスチャはにじみ化するため“弱シャープ”。
- レーザー — 200–300dpi実運用。写真はノイズ低減を先行し、輪郭は半径小で控えめに。
- 紙質 — コート紙は高dpiを受け止めやすいが、上げすぎは不要。上限は用途で決める。
2. 必要ピクセルの算出(px⇄mm⇄dpi)
仕上がり寸法から必要pxを逆算します。観察距離が長いほど必要dpiは下がります。
export function mmToPx(mm:number, dpi:number){ return Math.round((mm/25.4)*dpi); }
export function pxToMm(px:number, dpi:number){ return +(px/dpi*25.4).toFixed(1); }
// 例: A4短辺210mm を 200dpi -> 1654px
console.log(mmToPx(210,200));
- 一般用途: A4/A3 で 150–300dpi が現実的。掲示/離隔長い用途は 100–150dpi でも可。
- 微細文字/図版多い誌面のみ 300dpi を検討(むやみに 600dpi は不要)。
3. 前処理の順序(ノイズ低減 → 弱シャープ → 圧縮)
- 縮小: 目的寸法へ整数比優先。1/2, 2/3 など。
- ノイズ低減: 微細ノイズを軽く抑えて網点化でのザラつきを予防。
- 弱シャープ: 半径小・量控えめ。リング発生時は戻して縮小比を見直す。
- 圧縮: 写真主体は WebP 85%±5%、文字図版はロスレス/PNGパレット。
3.5 シャープレシピ(目安)
実装や画像によって最適は変わりますが、スタート地点の目安を示します。
// Unsharp Mask の起点例(px単位)
// A4程度・200dpi想定(縮小済みの最終画像に適用)
const inkjet = { radius: 0.4, amount: 0.6, threshold: 2 };
const laser = { radius: 0.3, amount: 0.4, threshold: 1 };
// 文字主体はシャープ最小 or 0、写真のみ弱適用。リンギングが出たら radius を下げる。
見た目 > 数値
数値よりも等倍と150%の見た目を優先します。小さな振動や白縁が出たら“適用しない勇気”。
4. 例: Web画像 → A4出力の最短レシピ
# 3000x2000px を A4(200dpi)想定に
# 1) 目標px: 短辺210mm -> 1654px
# 2) 比率維持で 1654px に縮小 (Lanczos)
# 3) 弱アンシャープ -> WebP q=85 で書き出し
印刷所の推奨がある場合はそれに従い、過剰dpi指定時は根拠とトレードオフ(容量/処理時間)を添えて相談すると通りやすいです。
4.5 ハーフトーン簡易プレビュー(目視確認の流れ)
実機テストが最良ですが、時間がない場合の簡易確認フローです。拡大/縮小の視差を使い、 網点化で失われやすい細部を疑似的に炙り出します。
- 等倍/150%でエッジ白縁・リンギング有無を確認。
- 1/2縮小→2倍拡大を繰り返し、微細ノイズが目立つ帯域を把握。
- 見え方が悪化する箇所は縮小比/ノイズ低減/量の順で調整。
5. 公開/入稿前チェック(5項目)
- 等倍確認で細文字がにじまない
- 肌/グラデのザラつきが許容範囲
- 過剰dpiでない(A4一般: 150–300dpi)
- リングが出る場合は縮小比/シャープ量を是正
- sRGBへ統一(併用Web想定時)
6. 小さな文字・図版の扱い(付録)
- 可能ならベクタで保持(SVG/PDF)。ラスタ化は最終ステップで。
- 等幅/細ゴシックは太らせずに“にじむ”ので、太字/やや大きめを提案。
- 写真上の白文字は影/縁取りでコントラスト確保(シャープで稼がない)。