ABRラダー設計:HLS/DASHの解像度・ビットレートの実務最適化
ABR(Adaptive Bitrate)は“段差の作り方”で体験が決まります。LCP/初期表示、切替の違和感、UI字幕やテキストの可読性、帯域のばらつきに強いか—を両立するラダーを最短で設計します。
先に結論
段差は 144p→240→360→480→720→1080(必要なら1440/2160)で十分。セグメントは 2〜4秒、キーフレームはセグメント境界へ固定。GOP/キーフレーム設計と組み合わせて同期を担保。
要点(TL;DR)
- 段差は少なめで良い — “使われないラダー”を削りCPU/IOを節約。
理由: 端末/帯域の実分布は中位へ集中。冗長な段は切替回数とメモリ負荷を増やす。 - セグメント=2〜4秒 — 切替レスポンスとオーバーヘッドのバランス。
短すぎるとプレイリスト/HTTP負荷が増える。長すぎると切替が鈍い。 - キーフレームを境界に — IDR/セグメント整合は必須。
境界で再同期できないと切替画質が崩れ、帯域を無駄に使う。 - テキストUIは720p優先 — 360pで読めないUIは体験破綻。
UI/スクリーンキャストはクロマの滲みと量子化の影響が顕著(関連: 色差サブサンプリング)。
1. 設計原則(利用分布から“必要最小限”を切り出す)
ABRは“全部の段”が再生されるわけではなく、ユーザーの帯域・端末分布でほぼ固定されます。解析から 再生時間の80%を占める2〜3段 を特定し、そこを最適化の中心に据えます。
- UI/解説用途: 360/720/1080 を中核に(360=サムネプレビュー, 720=本文, 1080=全画面)。
- 写真/自然物用途: 480/720/1080 中心で 量子化の荒れを抑える。
- モバイル優先: 240/360 を厚めに。上位は 720 までで十分なケースが多い。
2. 推奨ラダー例(H.264/VP9/AV1の別)
ビットレートはコンテンツに依存するため幅を示します。エンコード基礎と併読して微調整してください。
- H.264: 360p 0.6〜1.0Mbps / 480p 1.0〜1.6 / 720p 1.8〜3.0 / 1080p 3.5〜5.5
- VP9: 同解像度で -25% 目安。1080p 2.8〜4.2Mbps。
- AV1: 同解像度で -35〜45% 目安。720p 1.0〜1.8Mbps。
UI/文字の可読性
低解像ではクロマ滲みと量子化が重なります。720pのしきい値を下げすぎない・短尺UI動画の最適化でposter/初期表示を整える、が近道です。
3. 実務チェックと観測
- キーフレーム=セグメント境界(IDR合わせ)— GOP最適化と一体運用。
- セグメント長=2〜4秒 — LL要件がなければ3秒が妥当。LL-HLSは後述。
- 初期段は安全側(360/480)— 再生成功率を優先し ABテストで昇格。
- プレイヤーの観測 — 起点段/切替回数/バッファ欠乏/失敗率をダッシュボード化。
4. 低遅延(LL-HLS/CMAF)に切り替える判断軸
会話同期・ライブデモは LL(Low Latency)が効果大。CMAFの chunked セグメントで遅延を縮め、キーフレーム間隔を短くしすぎないように注意します(1〜2秒)。
詳細は LL-HLS/CMAFの低遅延運用 を参照。
5. まとめ
ABRは“段差の作り方”と“境界の整合”で体験が決まります。ポスター/LQIPで初期体験を上げ、再生指標で回帰を検知し、コーデック移行と合わせて段階的に改善していきましょう。
FAQ
FAQ(よくある質問)
1キーフレーム境界と切替の関係
切替はIDR境界で行うのが基本です。GOP最適化と合わせて境界整合を確保します。
2テキスト重視のUIでの優先解像度
720pを基準に。360pはサマリ・プレビュー用途、1080pは全画面重視。